3章

影狼がこの「取り調べ室」で目を覚ましてから二日目。
既に正午を過ぎたが、由衣は現れない。
剣介の無残な亡骸は昨夜、二人の婦警が黒いゴミ袋に詰めて引き上げていった。
二人とも、能力者でもなんでもない、二十歳前後の普通の女の子だ。
彼女らは、剣介の亡骸を見ても顔色ひとつ変えずに、談笑しながら片付けていた。

影狼のターゲットは能力者限定だが、実際は非能力者の女性が男性に対する虐待も静観できないものがあった。
しかし、囚われの身である影狼には、もはや彼女らの粛清は叶わない。

影狼は今朝から、その固定された腕に点滴を受けている。
薬剤の種類が不明なので、若干不安があるものの、今のところは体調に目立った影響は感じない。
尤も、寝たきりで拘束されているので、正確には判断できないのだが・・・。

カチャリ
ドアが開く音が聞こえた。
反射的に影狼は視線を向けて相手を確認する。
(なんだ、真理亜か・・・)
入ってきたのは由衣ではなく、真理亜だった。
真理亜は小さく笑って近づいてきた。
「くすっ、そんなに由衣が怖い?」
(なんだと?)
「私だと判って安心したみたいだけどね」
(ふざけんなっ)
影狼は猿轡をされているので話せないが、思考を読む真理亜には関係ない。
「ま、いいわ」
(何しにきやがった?)
「まだ強がれるのね。まぁ元気そうで安心したわ」
真理亜はベッドに腰を下ろした。
影狼は一瞬、緊張した。
真理亜が笑って影狼を覗き込む。
「恐怖感が伝わったわよ。お尻が怖いの?」
(いい加減な事をいうなっ)
影狼は強がったが、真理亜が腰を下ろす時に、反射的に恐怖を感じたのは事実だった。
「強がらなくていいわよ。由衣が剣介をどういう風に処分したか聞いてるから」
コンコン
「真理亜さん、入りますよ」
若い女の声が聞こえ、影狼は緊張した。
「声が違うでしょ。由衣は学校。今日は部活があるから夜まで来ないわ」
真理亜が呆れ顔で言った。
女が近づいてきて、真理亜の横から影狼を覗き込んだ。
「ふぅん、こいつが「影狼」ですか」
青いポニーテールにオレンジの瞳。真理亜よりは小柄だが、由衣よりは背が高い。
黒のタンクトップとジーンズの短パン。かなりラフな格好をしている。
「昨日は声が聞こえただけでしたからね」
と言いながら彼の顔を眺める。

「けっこういい男じゃないですか。猿轡が邪魔だけど」


(こいつも、知らない奴だ)
「この娘も由衣と同じ、特殊警察の一人よ」
「同じじゃないです。もう見習いじゃないですから」
「そうだったわね」
真理亜は苦笑した。
「ちなみに、彼女の最近の仕事は「喉元の剣先」の壊滅よ」
(・・・こいつが襲撃部隊の一人か)
真理亜が小首を傾げて影狼を見た。
「なにか勘違いしてそうなので教えておくけど」
(ああ?)
「部隊ってほどのものじゃないわ。確か三人で行ったのよね?」
後半は傍らの少女に対する言葉だ。
「え、ああ、喉元の、、なんだっけ?あの仕事のことですよね」
「そうそう」
「三人ですよ。あたしと美咲さんと真緒とで行きました」
(精鋭揃いの「喉元の剣先」が、こんな小娘に・・・)
「ふふ、結菜、彼があなたのこと、「こんな小娘に」だって」
真理亜の言葉で結菜と呼ばれた少女の目つきが鋭くなる。
「真理亜さん、ちょっとコイツ苛めてもいいですか?」
その言葉に影狼は半ば意識して殺気をみなぎらせる。そうしていないと、少なからず畏怖の念を抱いてしまいそうだったのだ。
「いいじゃないまだ十九なんだから小娘でも」
と真理亜が微笑む。
「もぅ、真理亜さんまで」
(こいつも十代なのか・・・)
「それに、手を出したら由衣が怒るわよ。ただでさえ「喉元の剣先」の時に置いていかれて拗ねてるんだから」
「だって、美咲さんが由衣は戦闘向きじゃないからって言ったからですよぉ」
と結菜は頬を膨らませる。
「そんなことより、もういいの?」
と真理亜が言うと、結菜は影狼を一瞥する。
そして
「ハイ、猿轡は仕方ないです」
と言った。
「五体満足の姿なんて、もう見れないでしょうからね」
と真理亜が物騒な事を言った。
(ふん、覚悟はしてるさ)
「へぇ」
真理亜が鼻で笑った。
(だが、こいつの目的がわからない。捕虜の観察が趣味というわけでもあるまい?)
「あなたには関係ない事よ」
真理亜が冷たく言い放った。

真理亜の手によって点滴の液が足された。
彼女が言うには、ただの栄養剤らしいが、事実、影狼の体力、気力が持続しているところを見ると、嘘では無さそうだった。
真理亜たちが去ってから六時間余りが過ぎた。
「取調べ室」にある時計は七時を過ぎていた。
腕の点滴は一時間ほど前に現れた婦警によって外されている。
もしかしたら、今日は来ないんじゃないのか?
なら・・・。
この部屋に窓はひとつ。高さはかなりあるが鉄格子などの類ははめられていない。
ベッドをうまく利用して飛べば届かなくは無い。
問題は拘束具をどう外すか、だが・・・。
そんな風に考えた時、ドアが開いた。
ガチャッ
「やっほ〜、元気ィ?」
由衣だ!
影狼の動悸が速くなる。
「由衣ィ、あれが反逆者なん?」
由衣とは違う声も聞こえた。
「そうだよん」
影狼が視線を向けると、間違いなく「由衣」がいた。
グレーのブレザーにチェックのマイクロミニのスカート。ブレザーの下には青いリボンを着けた白いブラウスが覗いている。
そして、同じ服を着た少女が二人、由衣と並んで立っていた。
学校の制服か?
「女子高生の制服姿っていいでしょ♪この娘たちは普通の女の子だよ。クラスメートなんだぁ」
影狼の視線に気付いた由衣が説明する。
「学校から直接来たんだけどさ、この娘たちも興味あるって言うから連れてきたの」
猿轡をされている影狼は無言で三人を睨み威圧する。真理亜がいない今、内面まで見透かされる恐れは無い。
例え末路が死しか無いとしても、「隠れ里」の戦士として、こんな小娘どもに弱みを見せるわけにはいかない。
しかし、三人の女子高生にとって全身を拘束されてる男に睨まれても怖くもなんともない。
少女達は怯むことなく近づいてベッドを囲んだ。
「ちなみに」
と由衣は彼女よりもやや小柄な少女を紹介する。黒いロングヘアの見るからに清純そうな少女だ。
「この娘が剣介のケツに棍棒を刺した犯人だったりするんだけどねっ」
と言って楽しそうに笑う。
「涼子ったらそんなことしたんだぁ。ねぇ由衣、今日はあたしにも遊ばせてよ」
と、もう一人の少女が言った。
こちらは由衣と殆ど同じ体形だが、銀髪のショートヘアで活発そうな雰囲気を醸し出している。
「もちろんいいよん。ってゆうか、最初から風香にも涼子にもやらせてあげるつもりだったし」
影狼にとってこれほど屈辱な会話は無い。
しかし、完璧に拘束され、ボールギャグの猿轡まで咬まされ、抵抗どころか自害さえ出来ないのが事実だ。

由衣が影狼の顔を覗き込んだ。
「影狼くんっ、キミに一回だけ無罪放免のチャンスあげるねっ♪」
口元に嗜虐的な笑みを浮かべている。
影狼は訝しく思い由衣を睨む。すると・・・。
ビリビリビリッ
由衣の瞳が射抜くように鋭く、そして冷たく青色に輝いて・・・。
その目で見つめられた影狼の全身に電流が走ったような感覚が襲った。
「どうしたの?聞いてるぅ?」
はっとして我に返る影狼。由衣を見ても何も変わったところは無い。
殺気とは違う異様な気だった。影狼は自分の気力が削がれてはいない事を確認する。
よし、大丈夫だ。
「チャンスあげるんだから、舌とか噛まないでよ」
言いながら、由衣は影狼の猿轡を外した。
影狼は約一日ぶりの、口での呼吸を味わって心を落ち着ける。
「ね、生きてるっていいでしょぉ」
と大きく息を吸う影狼に由衣が意地悪な微笑を見せる。
「明日も呼吸できるとは限らないもんね」
影狼はそんな由衣の言葉を無視する。
「俺にチャンスを与えるだって?」
「そうよ。嬉しいでしょ〜」
本当にチャンスなのか?剣介の様を見る限り、信頼性は五分・・・。
ならばすべき事はひとつ。
「嬉しいよ、このチャンスを最大限に活かさせてもらう」
「えっ?」
「あばよっ」
ブチッ
影狼の口から血が噴出す。舌を噛み切ったのだ。
影狼は意識が遠のくのを感じたが、心は満ち足りていた。
・・・これで、・・・隠れ里は安泰だ・・・。
「あらら、自殺しちゃったよ」
銀髪ショートヘアの少女、風香が呟く。
「もう終わりなのぉ?」
黒髪ロングヘアの少女、涼子が寂しげに由衣に尋ねる。
「まさかっね♪」
由衣は無言で影狼の口をこじ開けると、手を中に突っ込んだ。
突然、彼女の掌を青い光が包み込む。
「あたしの前で舌なんて噛んでも、痛い思いをするだけだよぉ」
青い光に包まれて、影狼の舌の傷がみるみる塞がっていく。
由衣は影狼の口内から手を抜いた。
傷は既に塞がっていたが影狼の意識は戻らない。
パァーン
由衣のビンタが影狼を襲う。
「うっわぁ、強烈ぅ〜」
風香が驚嘆するだけあって、一発で影狼の意識を呼び戻した。
「うぅっ、俺は?」
口の中は血の味がした。しかし、噛み切ったはずの舌には「傷跡」があるだけだった。
「お花畑でも見てたぁ?」
由衣が呆れたように笑った。
「傷が、治ってる?」
「あたし、ある程度の怪我なら治せるのよね♪」
「それって、拷問向きだよね〜」
と風香が笑う。その意味を考える余裕は今の影狼には無かった。
「せっかくチャンスあげるって言ってんだからぁ、勝手に消耗しないでよ」
「俺は何も話さん」
「そんなこと訊いてないじゃん」
影狼は無言で由衣を睨む。睨む事でしか抵抗を示せない自分がもどかしい。
こんな小娘、身体が自由なら・・・。
「キミは戦闘力が自慢なんでしょ」
言いながら由衣は影狼の拘束を解き始めた。
「全部外してあげるから、あたしと戦うんだよ」
影狼の上半身を自由にしたところで、由衣は一旦、手を止めた。
「キミが勝ったら無罪放免、あたしが勝ったら取り調べ、ってか拷問開始ってこと」
影狼は耳を疑った。本気の提案なら、まさに大チャンスだ。
無罪放免が嘘だとしても、身体さえ自由になれば三人を始末して脱出する事も可能だ。
真理亜クラスの能力者に見付かったとしても、逃げに徹すれば何とかなるだろう。
影狼は自害の失敗に感謝した。
「あ、この二人はとりあえずギャラリーだからね」
敵戦力としては、この二人は元より眼中に無い。
「あなたが自信を持ってる格闘でボコボコにして反抗心を削ごうってこと」
と無邪気に話す由衣。
「本気で俺に勝てるつもりなのか?」
「あたしは真理亜さん程は強くないけど、それでも真理亜さんと比べると戦闘向きだもん」
不可解な台詞に影狼は疑念を抱く。
なるほどね・・・。
「まだ隠してる能力があるんだな」
「もう残ってないよ。それに、あたしは真理亜さんみたいに不死身じゃないから安心してね」
由衣の言葉を信じるなら、影狼には自分が負ける要素が見当たらない。
影狼はもう何も言わなかった。疑問は残るが、チャンスであることには違いない。
全身が自由になる前に由衣の気が変わったら大変だ。
カチャカチャ
由衣が影狼の下半身の拘束をも解いた。
影狼の身体は完全に自由になった。

影狼は下半身を持ち上げ、戻す反動でベッドの下まで飛び起きる。
「俺にチャンスを与えたこと、後悔させてやる」
言って構えるが・・・。
ギャラリーの風香と涼子がくすくすと笑う。
「ごめん、ちょっと待って」
由衣も失笑しながら、ベッドの下から何かを出した。
「制服の女子高生を襲う全裸の青年って、おもいっきり変質者の画だもん」
言って、取り出したものを影狼に投げ渡す。
レスリング用のパンツだった。
屈辱に感じながらも、影狼は素直にパンツをはいた。確かに下半身が裸だと動きにくい。それに、三人を始末したあとも全裸では不便だ。
「どうせあとで脱がすんだけどネ」
由衣が言い、風香と涼子が笑う。
影狼は改めて戦闘態勢をとった。
由衣もブレザーを脱いだ。青いリボンが白いブラウスに映える。
影狼がふと由衣の足元を見ると茶色のローファー。
なるほど、あの時の真理亜はピンヒールだったからな。
ということは、真理亜より弱いと言っても、あの時の真理亜よりは強い可能性もある・・・。
由衣が影狼の視線に気づいた。
「心配しなくても、あたしは、ピンヒールを履いた真理亜さん、よりも弱いから」
「正直だな、だが、それなら尚更、俺が負ける要素は見当たらないぞ」
「そうかなぁ?でもあたし、剣介には楽勝だったよ」
影狼の警戒心が加速度を増して上がった。
間違いない。由衣は無いと言ったが、まだ隠している能力がある。
「はじめる?」
由衣が上目遣いで尋ねる。
ふっ
影狼は鼻で笑った。
強いか弱いかは戦えば分かることだ。
「お前を倒して俺はここを出て行く」
この言葉が戦いの合図になった。

由衣がどこかで見たような構えをとる。
まるで格闘技ファンのど素人、はっきり言って隙だらけだ。
真理亜のようなオーラも無い。
ダッ
影狼が得意の速さを活かして間合いを詰めた。
シュッ
体重を乗せて、速さに破壊力がプラスされた右フックが由衣の頬にヒットした。
ボコッ
会心の一撃、としては打撃音が小さく感じたが、並みの人間なら一撃で意識が飛ぶであろう手応えは感じた。
しかし、由衣は二〜三歩よろけただけだった。
「なるほど〜、びっくりしたぁっ♪」
由衣が感心したように歓声を上げた。しかし、驚いているのは影狼のほうだ。並みの人間だとは思っていないが、あまりにダメージが無さ過ぎる。
影狼は間合い外して構えをとる。距離を置いても真理亜の時みたいに油断はしない。
「凄いよっ、速さも、強さも、剣介よりずっと上じゃないっ」
正直、剣介との差が開いて来ていた事には影狼は気づいていた。
しかし、その自分の打撃を喰らって平気な顔をする女子高生由衣・・・。
「剣介も強かったけど、キミは格が違うってカンジ」
褒められれば褒められるほど由衣に余裕を感じてしまう。
「その頑丈さは、能力じゃないのか?」
「えっ?あははっ、あたしって頑丈なのかなぁ」
影狼はかぶりを振った。そして集中力を切らさず、間合いを詰める。
「えいっ」
まさに女の子、といった掛け声で由衣が攻撃を繰り出した。
ブラウスの裾からおへそが覗く。その動きはまさに素人だった。
遅いな・・・。
影狼は横にステップして避ける。
ブンッ
由衣の拳が風を切るが、やはり大した速さでは無い。
確かにそう見えるのに、余裕を持って避けたはずなのに、彼女の拳は影狼のすぐ傍を通り抜けた。
影狼が咄嗟にバックステップで間を取ると、由衣が追いかけてきた。
ミニスカートを翻して右ハイキック。
影狼はスウェーでよける。由衣のローファーが鼻先に掠った。
まただ、大したスピードじゃないのに・・・。
「由衣、ハイキックなんかしたらパンツ見えるよ〜」
と涼子。
「べつにいいよ、今日のパンツは可愛いやつだもん」
由衣が返す。
ハイキックに限らず、この短い制服で下着が見えないように戦うのは不可能だろう。
しかし、影狼にはそんなものを気にする余裕は無かった。
影狼は由衣の攻撃のみに神経を集中する。油断はしない。
「いくぞっ」
影狼が攻撃に転じる。
ジャブ、ジャブ、フック、ストレート
最後のストレートが由衣の頬を掠めたが、決定打は出ない。
由衣がショートアッパーを打ち上げる。
避けきれないと判断した影狼は右手で受け止めるが、由衣の拳は彼の右手で止まらず、真っ直ぐに向かってきた。
それでも、スピードは落ちたので、咄嗟にスウェーでアッパーを避けた。
あんな素人のアッパーを受け切れないなんて・・・。
「逃がさないよ〜」
由衣が右ミドルキックを繰り出す。極端に短いスカートは動くたびに下着が見えるが、蹴り技を出す時に邪魔にならない。
影狼は攻撃の重さからガードは得策では無いと判断し、一歩踏み込むと左手で由衣の太股を掴んで飛び上がった。
そして、そのまま彼女の顔面にとび蹴りを放つ。
思いがけない攻撃に由衣の防御は間に合わず、打撃をまともに受けて後方に転がる。
影狼が体勢を整えて追い討ちをかけようと詰めると、由衣が飛び起きた。
「顔を蹴ったわね・・・」
由衣の表情が変わっていた。陽気さは消え、殺気立っている。

「由衣、おこっちゃったね〜」
涼子が気の毒そうに言った。
「でも、あの兄さん、マジで強くない?」
風香が感心したように言う。

凍りつくように冷酷な由衣の表情。
影狼は信じられない思いでそんな彼女を見る。
顔面に飛び蹴りが決まったのにダメージを与える事ができず、単に怒りを勝っただけだという現実。
由衣が向かってくる。
フック、フック、フック、フック、フック・・・
怒りのせいか、攻撃は単調で大振りになっている。
影狼は簡単にカウンターを合わせられそうな気がしたが、用心して攻撃を避ける事だけに集中する。
やがて、怒涛の連打が終わった。
由衣はやや息を切らせている。撃ち疲れたのだ。
なるほど、由衣の体力には普通に限りがある。いくら打たれ強くても真理亜とは根本的に違う。
そう気付くと気力がみなぎってきた。
影狼は一気に間合いを詰める。
ぶぅん
由衣が無造作に繰り出したフックを潜り込んで避け、鳩尾にストレートを叩き込んだ。
いい手応えだった。その刹那・・・。
バコッ
影狼は後頭部に衝撃を受け、一瞬で床に衝突した。由衣がハンマーパンチを打ち下ろしたのだ。
「ぐっ・・・」
そして、起き上がろうとした影狼の後頭部に由衣が右足を踏み下ろした。
ぐしゃっ
「ぐがっ」
影狼は顔面を床に強く打ち付ける。
その彼の頬を、ローファーのキックが襲う。
ボコッ
横っ面を蹴られ、影狼は仰向けになる。
「まだ平気よね?」
言って由衣は影狼を跨ぎ、両足首で挟んで彼の顔を固定する。
「由衣、パンツ見られてるよ〜」
風香がからかう。
「じゃ、見えなくしようっと♪」
由衣が足を持ち上げた。すぐに影狼の顔面をローファーの底が襲う。
グシャッ
更に由衣は足を持ち上げる。
影狼は空いたほうへ転がってそれを避けると、素早く立ち上がった。
鼻血が滴る。
影狼は鼻を拭い、同時に折れていないことを確認した。

「おぉ、兄さん、やるじゃん」
風香が歓声を上げた。

影狼の左頬が腫れていた。
「まだ頑張れる?せめて怪我だけでも治してあげようか?」
由衣が影狼をからかう。彼女は影狼を痛めつけた事ですっかり冷静に戻っていた。
荒い呼吸をしながら、影狼は必死に考える。
どうしたら勝てる?
考えるとすぐに、勝つ方法は浮かんでくる。
由衣は明らかに素人でスピードも無い。普通に戦えば勝てるはずなのだ。
なのに、思うとおりに戦いが進まない。
由衣が相変わらず素人のような構えをとった。
影狼はとりあえずバックステップで距離を開けた。
「由衣、逃がすな〜」
風香がはやし立てる。
「まかせてっ」
と言って由衣が一歩踏み込むのと同時に、影狼も体勢を低くして踏み込み、由衣に組み付いた。
ガシッ
高速タックルだ。
影狼は由衣の腰に抱きついたような体勢になった。汗の匂いに混じって甘い香りが漂う。
腕力だ、腕力でねじ伏せてやる!
速さが売りの影狼なので腕力は超一流という程では無かったが、普通の成人男性よりははるかに秀でている。
しかし、影狼が由衣をひっくり返そうとしても、由衣の足は地面に根が生えたかのように、全く持ち上がらない。
由衣は上から軽く影狼の肩を押さえているだけだ。
「ねぇ、なにしてんの?」
くそっ、倒れろっ倒れろっ
由衣は小柄な少女だ、腰が重いと言っても限界があるはずなのに・・・。
くしゃっ
由衣が影狼の髪の毛を鷲づかみにした。
「くすぐったいよぉ、お尻触んないでっ」
笑って、そのまま影狼の頭を自分の正面、腰の位置に引っ張った。
微動だにしない由衣、逆に自分は簡単に引っ張られる。
しかも、この位置は・・・。
ヤバイッ
影狼は咄嗟に由衣の腰から手を放し、顔面の前で交差する。
そこへ、予想通りに由衣の膝が飛んできた。
ボグッ、ボゴッ
左右で膝の連打。

「あの兄さん、相当なモンよね。しっかりガードしてるし」
と風香。
「あまり意味無いみたいだけどね」
と涼子。

確かにガードは間に合った。しかし、一発目の膝で影狼の手の骨は砕けていた。
その時に鼻も潰れ、出血がおびただしい。
ボゴッ、ボグッ
「うっ、うっ」
バゴッ、ボゴッ
由衣の艶かしい膝が徐々に影狼の意識を奪っていく。
ドコッ、ボゴッ、
「あっ、ぐっ」
グシャッ、バキッ
「あ〜、ついにおちたみたい」
と残念そうに風香。
影狼の両腕はついに力を失い、だらしなく投げ出されてしまった。
ベキッ、ベシャッ
由衣の太股が返り血で染まってゆく。
「まだまだ平気でしょ〜」
言いながらも由衣は攻撃をやめない。
グシャッ、バキャッ
影狼が意識を失っている事は由衣も気付いている。
それでも由衣は影狼の髪を掴み、踊るようにリズムに乗って膝を蹴り上げ続ける。
グシュッ、ボコッ
蹴られるたびに、影狼の身体は大きく揺れる。
ボコッ、バキッ
影狼の顔面は既に真っ赤で、床にも大量に血が滴っている。
バキッ、ボコッ
由衣は高揚し、既に瀕死の影狼に対し、容赦なく膝の連打を続ける。
ぐしゃっ、ぐしゃっ
スカートにも返り血が飛び散っている。
「由衣ィ、そろそろやめないと、そいつ、死んじゃうよ?」
と、涼子の忠告。
ぐしゃっ
由衣の攻撃が止んだ。
由衣は影狼の髪の毛を持ち上げて、顔の位置を自分と合わせる。
その血みどろの物体は、一見すると人間の顔だとわからない。
だがよく見ると、その赤黒い物体の中から腫れあがった両目や潰れた鼻を見つける事ができる。
「うっわ、酷い顔〜」
由衣が自分でやったくせに顔をしかめる。
「確かに、ちょっとやり過ぎちゃったかも」
と舌を出して笑った。
「じゃ、とりあえず締めるね〜」
由衣は髪を掴んだまま勢い良く影狼の顔を引き下げると、そこに思い切り膝を蹴り上げた。
由衣の赤く染まった若い膝が、影狼の顔面にめり込んだ。
ぐしゃっぶちっぶちっ
由衣に掴まれた髪の毛は引き千切れ、それでようやく影狼の顔は由衣から解放された。
影狼は胸を反らすように浮き上がると、その反動で床に顔面から激しく落下した。
顔面を中心に血だまりができる。もう影狼はぴくりとも動かない。
「いえぇぇい」
ギャラリーの二人が歓声をあげる。
由衣はそんな二人に声をかけた。
「ねぇねぇ、ケータイで撮ってくんない?」
「OK」
風香と涼子が携帯電話を出して写真を撮る。
画面には、血だまりに沈む男の後頭部に脚を乗せ、舌を出して悪戯っぽく笑う由衣が映っていた。

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