一章

23世紀末、この国は特殊な能力を持つ女性たちによって支配されていた。
23世紀の初頭に突如現れた特殊能力者たちは、当時の権力者たちを着実にかつ迅速に抹殺して行き、同世紀の中頃にクーデター。
強引に権力に付くと、反政府勢力を圧倒的な暴力によって制圧。
度重なる圧倒的な弾圧によって、今ではもう表立って逆らう者はいない。
しかし、選挙も何も無い恐怖政治とは言え、政策は旧時代と殆ど変わらなかった。徹底した「女尊男卑」の方針以外は・・・。
実際に特殊能力を持つ者は、女性の中でも極一部だったが、優位性は全ての女性に与えられ、
男は労働力と生殖のための道具としてのみ存在し、例え過失であっても、男性が女性を傷付けた場合、女性が訴えれば極刑。
逆に、女性が理由無く男性を殺害したとしても罪に問われる事は無かった。

しかし、圧制、恐怖政治。そういった世の中には必ずといって良いほど存在するのが、抵抗組織、レジスタンスだ。
その様相は、都市に潜伏して活動する組織。拠点に潜み、行動を起こす時のみ外界にあらわれる組織、
また、ターゲットを能力者に限定する組織や女性の全てを敵とする組織など、様々であった。

ある山の中腹。拠点型のレジスタンスとしては最大規模の、通称「隠れ里」と呼ばれる組織があった。
場所も明らかにされて無いうえに、東西南北の4箇所の出入り口には、

組織で四天王と呼ばれる屈強の男達がそれぞれ守護し、「隠れ里」は磐石の守りを見せていた。

夕暮れ時、「隠れ里」で第五の戦士と呼ばれる、「影狼」は、拠点を離れ、行動範囲を首都圏にまで伸ばしていた。
数日前、ここで都市潜伏型レジスタンスの勇、「喉元の剣先」という名の武闘派組織が壊滅したと噂を聞いた。
影狼自身は、外界での活動が主なため、「喉元の剣先」とは一緒に活動したこともあったし、何度も世話になった。
この組織で最強と言われていた「日向剣介」は、自分と同等の実力は持っていたと判断している。
ただ、協力関係にあったとは言え、彼らの方は「隠れ里」の場所を知らない。

影狼は、「喉元の剣先」のアジト・・・、いや、元アジトに着いた。2階建ての倉庫のような建物だ。辺りを警戒しつつ中に入ってみる。
ところどころに血の跡や銃創などがあり、死臭が漂っている。だが、人の気配は無かった。
「本当に壊滅したんだな・・・」
影狼は呟いた。
組織の人員は50人前後だったように記憶している。
首都に根城を構えるだけあって、みな、かなりの猛者だったはずだ。だが、そんな彼らでも能力者との戦いは一対一がやっとだ。
能力者が人口比率で少数とは言え、首都には常時、500を越える人員が控えている。
(首都なんかに拠点をかまえるからだ)
しかし、実際にはたった三人の能力者に壊滅された、ということを彼は知らない。
アジトには武器になりそうなものは残されてなかった。

影狼はアジトを出た。既に日は落ちている。
彼は卓越した格闘技術に加え、暗器の使い手でもある。例え能力者と出会っても、一対一なら負ける気はしない。
彼の仕事は「能力者狩り」だった。
その暗殺技術とスピード自慢というところから付けられた影狼の名前は伊達じゃない。
彼の最終的な目標は、女性の一部だけが特殊能力を持って生まれてくる原因を解明することだった。

殺気を隠し、一般男性のように、女性に怯え、萎縮しているような素振りで町を歩く。
少し歩くと、はやくも見覚えのある女を見つけた。
影狼は気配を消して女の後ろに回り、一定の距離を保って後を付ける。
女はロングの髪に白のジャケットとスカート。スタイルが良く、身長も175センチの彼とあまり変わらない。
角を曲がる時に、影狼はしっかりと女の顔を確認する。
(ビンゴだ。政府幹部の中に見た顔。ついてるぜ)
影狼は、首都で活動するのは初めてではない。
しかし、実際に政府に所属している能力者を見つけたのは初めてだった。
影狼は悟られぬよう、興奮を抑え、チャンスを探す。
(能力の秘密を聞き出してから、ぶっ殺してやる!)
ふいに女が、路地に入った。
追う前に影狼は辺りを確認する。
(人気はない、表通りから見えない)
影狼は振り返った。後方から来る人影は無い。
(・・・よし、仕事開始だ!)
影狼は小さく深呼吸をして、後を追った。

しかし、影狼が路地に入ると、既に女の姿は無かった。
左右は壁で、隠れられる場所などは無い。
影狼は足を速めた。
路地そのものが曲がりくねっているので、ちょっと距離が開くと見失ってしまうのだ。

(こんなチャンスを逃してたまるかっ!)
いくつかの曲がり角を曲がると、ついに女の姿が目に入った。


道幅はやや広くなっていたが、奥は壁。つまり、袋小路だ。
そして女は、待ち構えていたかのように、影狼の方を向いていた。
(まさか、誘い込まれたのか・・・)
「そう、あなたは誘い込まれたの」
透き通るような綺麗な声だった。

影狼は女の顔を確認した。
(こいつは最高幹部の一人だな。俺と同じ24歳だったかな?名前は・・・)
「真理亜よ。でも私は23歳」
真理亜が笑った。瞳は不気味に赤く光っている。
ここで、影狼はようやく気づいた。
(・・・こいつの能力は、読心術か?)
「正解。正確には、心じゃなくて「思考」を読むんだけどね」
影狼が今まで倒してきた女たちは、こんなに簡単に自分の能力を明かしたりはしなかった。
その点だけでも、一般層の能力者とは違った。
(自信があるのか、馬鹿なのか・・・)
「さぁ、どっちかしらね」
「とりあえず、殺さねぇから、安心しな。今はな」
言って影狼は構えた。
しかし真理亜は首を振った。
「そんなの、面白くないわ」
そして続けた。
「私たちの能力の秘密でしょ?」



「なに?」
「特殊能力を持った人間。つまり突然変異なわけだけど、あれは人為的なものなの」
(何を言ってる?)
「あなたが聞きたいことを話してあげてるのよ」
影狼は不可解に思いながらも構えを解いた。
真理亜は満足そうにうなずく。
「ウィルスなの。今世紀の初め、人体の増強について研究していた男が、偶然に作り出したウィルス。このウィルスは、
基本的には無害で、人体に何の影響も与えない。ウィルス自体も体内に入るとすぐに死滅する。
だけど、女性の体内に入った場合だけ、奇跡的な割合で、体細胞に突然変異を生じさせ、超常的な力を得るの」
(生まれつきってわけじゃないのか・・・)
「そうよ。ただ、突然変異を起こす確率は、乳児期が高く、物心ついてから変異することはまず無いの」
「生まれた時に注射でもしてるのか?」
「いいえ、ウィルスについては、一般には知られたくないの。だから、定期的に空からウィルスを撒いてるのよ」
(生産している場所が問題だな)
「ウィルスを生産している場所は、すべて私の手帳に書いているわ」
そう言って真理亜はジャケットの内ポケットに潜ませている黒い手帳を見せた。
「特殊能力は子供には遺伝しないし、生産を止めれば新しい能力者は生まれないわよ」
「なるほど」
「これで全てよ。ですから、殺す気で来ていいわよ」
「ああ、生かしとく理由が無くなった。育った実は回収しとかないとな」
真理亜が笑った。
「ふふっ、この話をしたのは、あなたで何十人目かしらね」
「なんだと?」
「ふふっ、でも情報が漏れた事は一度も無いのよ」
「なるほどね、殺す気はお互い様って事か」
影狼は再び構えをとった。
「間合いを詰めて中段突き?」
真理亜が笑った。
(そうか、思考が読めるんだったな・・・)
「ふっ」
影狼は笑った。
「後悔しやがれっ!」
言った瞬間、影狼は真理亜の懐に居た。
「えっ?」
どぉん!
真理亜は後ろの壁まで飛んでいった。
真理亜が予測していた通り、中段突きが来たのだ。
しかし、影狼の動きは、彼女の予測をはるかに超えた速さだった。
「ううぅっ」
真理亜は呻きながらも、壁に手を付いてなんとか立ち上がった。
「よく立てたな。さすが支配層の能力者だ」
(好きなだけ思考を読んでろよ)
影狼はまだダメージが抜け切れていない真理亜へ、再び間合いを詰める。
綺麗な弧を描いて、右ハイキックが真理亜を襲う。
当然、真理亜も読んでいるので、素早くガードを上げるが間に合わない。
ボキッ
打撃音に混じって骨の折れる音がし、真理亜は再び吹っ飛んだ。
(終わったのか?あっけない)
「うぅっ」
しかし、真理亜はまだ死んでいなかった。
先程よりも更に緩慢な動作で真理亜は起き上がった。
「首の骨を折ったつもりだったんだが、思っていたよりタフだな」
影狼は若干驚きつつ、真理亜が起き上がるのを待っていた。
「予想以上の強さだわ・・・」
真理亜が苦しそうな息遣いで言った。
「悪いけど、後悔しても遅いぜ」
言って影狼は再び構える。
「あなたがね」
「言ってろ」
言って影狼は間合いを詰めた。今度は一撃で決めようとは思っていない。
ジャブ、ジャブ、フック、フック、フック・・・・。
異常な回転数のコンビネーションだ。
真理亜はなんとか反応するものの、殆どガードできていない。
20回転以上の連打の最後は、渾身の右ストレート。狙いは心臓だった。
影狼の拳に、真理亜の柔らかい胸の感触が伝わった。
真理亜は数歩後退すると、膝から崩れ落ちた。
真理亜を見下ろす影狼。さすがの彼も少し息が乱れている。
「そろそろ、止めを刺すぞ」
しかし真理亜は普通に立ち上がった。
「胸を狙うなんて、いやらしいわね「影狼」くん」
「なに?」
(なんで俺の名を?いや、そんなことより、なんで平気なんだ?)
「さぁ、続けましょう」
言って真理亜は数歩下がり、間合いを外した。
影狼は雑念を振り払った。
まずは、この恐ろしく打たれ強い女を殺すのが先だ。
影狼は間合いを詰めると、右ハイキックを放った。
真理亜は素早く左腕でガードをした。
(!?)
ガードされた事に驚きつつも、影狼は素早く足を戻すと、そのままの勢いで左ハイキックにつなげた。
しかし、真理亜はそれも右腕でガードした。
(何故、突然避けれるように)
真理亜の表情に余裕は見られなかったが、予想外の結果に、影狼は攻撃を一度中断し、後方に飛んで間合いを外した。
下がった影狼に対し、真理亜は初めて攻撃に転じた。
影狼に近づくと、いきなりの上段右ストレート。
相当な速さだったが、影狼は首を捻ってかわす。
(大丈夫、確かに速いが俺がかわせないレベルじゃない)
真理亜の攻撃は続く。
右フック、左フック、右フック、左フック・・・。
スウェーやダッキング、フットワークを使い、影狼はことごとく真理亜の攻撃を避けていく。
受ける、より、避ける、方が相手は疲れるのだ。
しかし、どれだけ避け続けても真理亜の攻撃は止まらない。
影狼は徐々に避けきれなくなり、腕を使ってガードする。
ここで影狼は恐るべき事に気づいた。
(こいつは全く息を切らしてない!!)
思考を読んだのか、真理亜がくすっと笑った。
(くっ)
影狼は真理亜の右フックを左腕で強引にはじくと、渾身の右ストレートを放った。
ごきゃっ
渾身の右ストレートは空を切り、真理亜のカウンターが影狼の顔面を襲った。
影狼には見えなかったが、真理亜のカウンターも綺麗な右ストレートだった。
影狼は膝をついた。地面に血が滴り落ちる。
(ぐっ、鼻が潰れたか・・・)
戦闘中に敵から目を離したのは失態だった。
影狼の目の前に白いピンヒールが現れた。
メキョッ
ピンヒールのつま先が影狼の眉間を遅い、中腰だった彼を仰向けに倒した。
(ヒール履いて戦ってやがった・・・)
ダメージは大きかったが、影狼はすぐに本能で飛び起きた。
ぶぅん。
起きた瞬間、目の前を真理亜の綺麗な足が通り過ぎた。
真理亜は意外そうに影狼を見た。
「避けられるなんて思わなかったわ」
影狼の意識はまだ朦朧としていた。
「凄い本能ね」
「なぜ・・・」
「ん?」
「なぜ突然強く・・・」
「私は変わらないわよ」
真理亜は澄ました顔で言った。
あれだけの激闘を経て、やはり息ひとつ乱れていない。
(そうか、能力はひとつじゃなかったのか・・・
体力が減らないってのも、脅威なもんだ、な・・・)
「さぁ、絶望しなさい」
真理亜が言い終わる前に、影狼は最後の力を振り絞って攻撃を開始した。
ジャブ、ジャブ、ジャブ、・・・
ジャブは全て受けられたが、これは最初からスピードを乗せるのが目的だった。
そして、渾身の右フック。これが的確に真理亜の首にヒットした。
「うぐっ」
真理亜は不思議そうに自分の首に刺さったナイフを見た。
「すごいわ・・・、ナイフは読めたのに・・・、見えなかった」
ごふっ
真理亜は血を吐き出して、力無く座り込んだ。そして、ゆっくりとナイフを抜いた。
真理亜の首から血が吹き出る。
(やったぜ・・・)
しかし・・・。
真理亜の出血はすぐに止まった。
そして、影狼の目の前でみるみる傷が塞がっていった。
「ふぅ」
真理亜は小さく息を吐くと、すっと立ち上がった。
(そういやぁ、あれだけ殴ったのに無傷だ・・・)
「完全治癒能力、って言うのよ」
言って真理亜はゆっくりと近づいてくる。
(くっ、どうすればいい?)
影狼の頭には、もう効果がある攻撃が浮かばない。
真理亜が攻撃を仕掛ける。
フックの連打だ。
影狼に余裕は無かったが、それでも必死に、なんとか腕でガードを続けた。
胴はがら空きだったが、真理亜は敢えてガードを固めている顔面へのフックを続けた。
やがて真理亜の左フックがガードしている影狼の右腕の骨を粉砕した。
「ぐぅぅ」
影狼のガードが外れた。しかし真理亜は一旦攻撃を止めた。
「ふふ、後悔しても、遅いわよ」
そして、大振りの右アッパー。
ゴキッ
影狼は顎の骨を砕かれ、身体が浮き上がった。
そのがら空きになった腹に、真理亜のストレートがめり込んだ。
「ぐげぇっ」
影狼はそのまま壁に激突した。
しかし、倒れるより早く真理亜が間合いを詰める。
ボコッドコッ
ボディーブローの連打だ。
影狼の口から血を吹き出る。
ボキッ、ガコッ
激しい連打が腹にめり込み、影狼は地面に足をつけることすらできない。
ボグッ、ドスッ
再び、影狼は大量の血を吐いた。
その血が真理亜にかかり、一瞬、攻撃の手が止まる。
壁に寄りかかり崩れ落ちる影狼・・・。
「汚い、よっ」
真理亜は、丁度自分の胸の位置まで落ちてきた影狼の顔面に強烈な右フックを決めた。
続いて左フック。そして右フック。
こんどは顔面にフックの雨が降り注ぐ。
バキッ、バキッ、バキッ、ボコッ
打ち上げ気味のフック連打で、影狼の顔の位置が、少しずつ真理亜と同じ高さまで浮き上がってくる。
既に影狼の顔は、原型が分からない程にどす黒く晴れ上がっている。
彼の身体からは完全に力が抜け、今や真理亜のフックによる力だけで立たされている状態だ。
ふいに、フックの嵐が止んだ。
影狼はずるずると崩れ落ち、壁にもたれ、正座するような体勢になった。
目の前に血で汚れた、白いタイトスカートに包まれた真理亜の腰があった。
(この俺が、年下の女に負けた・・・)
「そろそろ、とどめを刺すわよ」
真理亜の片脚が目の前から消えた。
バキッ
影狼の顔面を真理亜の回し蹴りが襲った。
(あぁ、まだヒール履いてやがる・・・)
影狼は力無く横倒しに倒れた。
影狼の半開きになった口に、真理亜はピンヒールの爪先を蹴り込んだ。
ベキッ
前歯が4本折れた。
影狼の視界が途切れた。
「でもね、悪いけど、まだ殺さないわ」
真理亜が冷たい声で言ったが、もう影狼の耳には届いてはいなかった。

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