残酷な少女たち・後編

サーーーーー…………

ティエル「………………」

ガラスの向こうからシャワーの音が響く中、わたしは一人立ちつくしたまま。

ティエル「………………」

どうしよう。どうすればいいんだろう?

わたしの前には、脅えた顔でベッドに寝ている裸の男性。

この人を……。

さっきの沙耶さんがやったことを思いだすと、なんだか、すごく……。

ティエル「……あ」

男の人と目が合いました。彼は目に涙を浮かべて懇願してきます。

男2「た、助けて……助けてください……」

ドクンッ

ティエル「う……」

自分の心臓が、一際大きく鳴るのが判りました。

わたしの手には、沙耶さんがくれたナイフがあります。

これを、この人の胸に押し付けて……。

男2「い、いやだあああっ!」

ティエル「っ!」

反射的にびくりと身を引いてしまいました。

ティエル「あ……わたし……」

男の人の胸には、細く、浅い、一本の切り傷が見えていました。

ティエル「………………」

半ば呆然としながらナイフの方を見ます。

薄く、でもはっきりと血が付いていました。

ティエル「………わたしが……」

わたしが、この血を出させたんだ………。

……………………

ティエル(……何で、なのかな?)

すごく、ドキドキする……。……顔が、身体全体が、熱い……。

人を傷つけて……こんなこと、わたしは……。

ふに

ティエル「……え? ……あぅ;」

いきなり背中にやわらかい感触を感じて思わず振り返……ったところを、指でつつかれました。

ぷにぷに

ティエル「……あの、何してるんですか沙耶さん?」

沙耶「……やわらかい」

ティエル「は……はぁ;」

……沙耶さんはなにが気に入ったのか、しばらくわたしの頬をつつき続けていました。

………………………………

ティエル「……やっとやめてくれた……」

沙耶「ティエル、さっきから一人で赤くなったりしてたね……」

何事もなかったように話を始める沙耶さん。はあ……。

ティエル「……あ、あの、沙耶さん、少し離れてくれませんか?」

沙耶さんはさっきからずっとわたしに身体をぴったりくっつけたまま。

ティエル「……それと服着てください」

背中に当たるやわらかい感触がすごく気になる……。

沙耶「……サヤのおっぱい、気持ちよくないの?」

ティエル「い、いや……」

気持ちよくないとは言いませんけど……………うう、湯上りの身体から漂ってくる芳香とか、わたしに触れてる真っ白な肌とか、ふわりとわたしを撫でるツヤツヤのピンクの髪とか…………すごく気持ちがいいんだけど……。

ティエル「悔しさのほうが……」

沙耶「ん?」

ティエル「な、なんでもないです……」

沙耶「フフッ……ティエルはこれからまだまだ成長するよ……」

ティエル「聞こえてるじゃないですかぁ……うう、それはいいから早く離れてくださいよぅ……」

沙耶「ダメ……今からティエルに教えてあげるから……」

ティエル「な、何をですか?」

沙耶「……殺しかた」

ティエル「………………」

沙耶「ティエル、殺しかたがよくわからないみたいだったから……」

ティエル「そ、そういうわけじゃ……」

沙耶「……いいから、サヤにまかせて……」

沙耶さんは後ろからナイフを持った手を取ると、それを男の人のほうにゆっくりと導いていきました。

ティエル「………………」

わたしはろくに抵抗もできずに―――いや、しなかったのかな―――沙耶さんのされるがままでした。

沙耶「……ティエルは最初だから……まずはこの辺りかな……」

そう言ってナイフを添えたのは、仰向けに寝ている彼の手首。

彼がさっきと同じような悲鳴をあげます。わたしはまた少しびくりとなってしまいましたけど、沙耶さんは全く気にせず、すとん、と、あまりにもあっさり手首を切り落としてしまいました。

男2「うぎゃあああああああああああああああ!」

沙耶「まだ悲鳴は早いよ……」

沙耶さんはわたしの手を押さえているほうとは反対の手で、わたしに断面が見えるように彼の腕を持ち上げました。

沙耶「ほら……ティエル……」

ティエル「わ…あ……」

真っ赤な血が、どんどん溢れてる……。

沙耶「……ここに……」

沙耶さんはまたわたしの腕ごとナイフを持ち上げ、その断面にずくりとナイフを突き刺しました。

沙耶「……ぐりぐり……」

男2「ギャ、ギャッ、ギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアア!!」

ティエル「……………………」

自分の手に肉を抉る感触が伝わってくる。

立ちのぼってくる血の匂いや、この人の上げる悲鳴を聞いていると……

なんだか……あたまがぼんやりして……。

沙耶さんはひとしきりそれを続けると、わたしの目の前に血まみれのナイフを持ってきました。

沙耶「……なめてみて……」

ティエル「……あ……」

わたしはぼうっとした頭で、目の前のなんだかいい匂いのする「それ」をぺろりと舐めました。

ティエル「おいしい……」

沙耶「……ウフフッ……」

ティエル「はっ……」

し、しまった……。

ティエル「あ、いや、あの、これは…そういうことじゃ、ないんですよ? だから、その、えっとですね……って、なんでそんな悲しそうな顔してるんですか沙耶さん……?」

沙耶「……ティエルが素直になってくれない……」

ティエル「あ、あの……?」

戸惑っていたわたしの手を再び沙耶さんが持ち上げます。

ティエル「わわっ……」

沙耶「……ティエルが素直になるまで……アナタ、死んじゃだめ……」

彼に向かってそう言うと、今度はナイフをお腹のほうに下ろしました。

つぷりと切れる感触が手に伝わってきます。

ティエル「う……」

男2「ひ……ひいぃっ!」

深くナイフを突き刺し、ゆっくりと裂いていきます。

ティエル(ナイフごしだけど……お肉、気持ちいい……)

直接手を入れたら、すごく気持ち良さそうだなぁ……。

ティエル(って、ダメ! そんなこと考えちゃ)

ぱっくりとこの人のお腹が裂けたところで、沙耶さんがもう片方の手を取りました。

ティエル「え? きゃっ……」

そして、ゆっくりとわたしの手をそこへ……。

ティエル「あ……」

ずぷり

男2「ぎゃっ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

わたしたちの手が裂けたお腹の中に沈むと同時に、すごい悲鳴が上がりました。

沙耶「………………」

沙耶さんはいつもの無表情で、わたしの手をその人の体の中で泳がせます。

ティエル「う…わぁ……」

ぐちゅぐちゅと音がするその中は、思ったとおりとても気持ちよくて……。

沙耶「……気持ちいい? ティエル……?」

ティエル「え? あ……」

でも、そんなのはやっぱり認められなくて。

ティエル「え、えっと……あったかい……です」

沙耶「うん……人の体の中、あったかいよね……」

ティエル「は、はい……」

ダ、ダメだってば。は、はやく手を引っ込めないと……。

そんな思いを沙耶さんはまったく無視して男の人の中を蹂躙し続けます。

ティエル「あ……うぅ……」

ぐちゅぐちゅとかき混ぜながら、手をお腹から胸のほうへ、移動させていきます。

男2「ギャッ、アギャッ、ギャギイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

体の中を直接触れられる痛みに、男の人が悲鳴を上げ続けています。

ぐちゅっ、ぐちゅっ

男2「アッ、ぎゃっ、ギャッ、イギャッ、やべ、やべっ、ヤベデグレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

ティエル「…………あの、沙耶さん……」

沙耶「ん?」

ティエル「やめてって言ってますよ……?」

沙耶「……うん」

ティエル「…………あのっ、やっぱりかわいそうですし……」

沙耶「……サヤ、もうやってない」

ティエル「え……?」

そう言われて、初めて沙耶さんの手がもう離れていることに気付きました。

ティエル「わ、わわわっ!」

慌てて手を引いて振り向くと、可笑しそうに笑っている沙耶さんがいました。

沙耶「フフッ……気持ちよくて気づかなかったんだ……」

ティエル「う……いや…そのぅ……」

沙耶「……気持ちよかったよね?」

ティエル「そ、そんなこと……」

沙耶「………………」

ティエル「あぅ……そんな不満そうな顔しないでください」

沙耶「……ティエル、強情……」

ティエル「だ、だって……」

沙耶「………………」

つーっと、沙耶さんの手がわたしの股間に伸びて……

ティエル「ひゃうぅっ! ……な、何するんですか!」

走った衝撃に情けない声を上げてしまいました……。

沙耶「ティエル、興奮してる……」

ティエル「え……?」

沙耶「濡れてるよ……」

そう言いながら、キュロットの上からわたしのそこを指で擦ります。

ティエル「うぐっ……あう……や、やめてくださいぃ……」

い、今、そこを刺激されると……。

沙耶「……ティエル、オナニーしたことある……?」

ティエル「え? んと………は、い……」

沙耶「……じゃあ、誰かにいじられたことは……?」

ティエル「あ、あるわけないです!」

沙耶「……じゃあ、サヤが初めてなんだ……うれしい……」

ティエル「ひゃぁっ!」

急に刺激が何倍にも強くなりました。

沙耶「サヤが……ティエルのはじめて、もらうね……」

見ると、なぜかキュロットとその下のパンツがすっぱり切れて、その中に沙耶さんの指が入り込み、直接わたしのアソコをいじっていました。

くちゅくちゅといやらしい音がわたしの耳にもはっきりと届きます。

ティエル「あ、うぁ……や、めてぇ……やめてください……」

ひぐっ、恥ずかしさのあまり涙が出てきます……。

それだけじゃなくて、この感覚はなんだか涙を誘います……。

沙耶「クスッ……恥ずかしがらないで……すぐに慣れるから……」

そう言いつつ、沙耶さんはもう片方の手でわたしの手を取りました。

沙耶「……こっちも忘れちゃダメ……」

そして、目の前で寝ている男の人のお腹の中に、再び手を差し込みます。

男2「あがああああああああああああああああああ!!」

ティエル「ああ…ぅ……」

ぐちゅぐちゅと音を立てながらまとわりつく肉や内臓の感触が、すっごく……

ティエル「あ、うぅ……気持ち、いいですぅ……」

沙耶「……やっと言ってくれた……」

少しだけ嬉しそうな沙耶さんの声が、わたしの手を加速します。もう沙耶さんに導かれるまでもなく、自分の手は激しくお腹の中で暴れ回りました。

男2「あっ、あぎゃっ、やべっ、やめで、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ティエル「……あ……あはっ、あははっ……あはははっ………」

沙耶「……ウフフ……」

沙耶さんも、そんなわたしに合わせるように、わたしの膣中に指を入れ、激しく動き回ります。

もう片方の手もわたしの胸に差し入れて、さらに気持ちよくしてくれていました。

ティエル「あっ…ふっ……あぁ……すごく…いいです……沙耶さん……」

沙耶「……うん。ティエルのなかも、あったかい……」

軽く頷いて、さらにわたしの中で暴れまわる沙耶さんの指。

ティエル「あふっ……あう……あ、ああ……!」

そしてお腹の中のわたしの手は、肉を引きちぎってみたり、内臓をぎゅっと掴んでみたり……男の人の大きな悲鳴は止まりません。

男2「アギャッ、イギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

ティエル(ああ、いいよぉ……すごく……)

沙耶「ウフフッ……ティエル、すごく濡れてきてる……」

ティエル「えへへ……もっと……もっと聞かせてください……悲鳴……」

すっと、自然にわたしの手が動き、持っていたナイフを男の人の顔面に突き立てました。

男2「ぐがっ、があっ、ぎゃぎゃっ!!」

ティエル「あんっ、あふっ…ふあぁっ……!」

ざくっ、ざくっ、と何度も何度も突き立てます。

ティエル「ああ…沙耶……さん、…もう……」

沙耶「……ん、イキそう……?」

沙耶さんの手がスパートをかけるように大きく動き出しました。自分の襞が、沙耶さんをぎゅっと締め付けているのがわかります。

ティエル「は…い……、あの、沙耶さん……」

沙耶「……殺すときは、心臓にそれを刺してあげて……。それで、ちゃんと死ぬよ……」

ティエル「あはっ……お見通し……なんですね……あふぅっ!」

沙耶「ティエル……可愛い……」

ティエル「んっ……あっ……ああぁ……」

沙耶「ん……いいよティエル……イって……」

ティエル「あっ、ふっ、あっ……あ……やあああああああああああああああっっ!!」

男2「あっ、がっ、あ……嫌だ……ぎゃ……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

わたしの嬌声と男の人の絶叫が、部屋に響き渡りました……。

ティエル「はふ……はぁ……」

行為が終わったあと、わたしは糸が切れたようにぺたんと座りこんでしまいました。

ティエル「はぁ……はふぅ……、……?」

と、気づくとわたしのアソコから大量の愛液に赤いものが混じっていました。

ティエル「これ……」

後ろを振り返り見上げると、沙耶さんがうっとりした顔で「それ」を舐めていました。

ティエル「………………」

沙耶「おいしかった……ティエルの処女……」

わたしと目が会うと、にこりと笑って沙耶さんはそう言いました。

ティエル「あは……」

その顔を見ると、わたしはなんだかホッとして……そのまま意識が途切れてしまいました。

沙耶「……? ティエル?」

ティエル「すー……すー……」

沙耶「……疲れたんだね。いいよ、おやすみ……。

あふ………。ん……、サヤも眠くなってきちゃった。これ片付けたら……一緒に寝よう……。

ね、ティエル……」

ティエル「ん……」

次の日、わたしは強い日差しと小鳥の声で目が覚めました。

ティエル「……?」

見慣れない天井……普段とは違うベッドの感触……。

ティエル「!!」

ばっ!と、昨日のことに頭が思い至った時点で跳ね起きました。

ティエル(……わたし、人、殺しちゃったんだ……)

そう思うと同時に昨日の自分の乱れ方も蘇ってきて……赤くなればいいのか青くなればいいのかわかりません……。

ティエル(そうだ、沙耶さん……)

結局彼女はなんだったのかよくわからないままでした。一体どういうつもりだったのかちゃんと聞かせてもらわないと……。

そう思って辺りを見回すと、ベッドの横の椅子に座っていた女の子と目が合いました。

少女「おはよ♪」

ティエル「…………………………誰、ですか……?」

少女「ん? そうね、沙耶の知り合いって所かしら」

ティエル「……………………」

突然のことに頭は混乱したけど、彼女はそんな混乱を押しのけて見とれさせるくらいに……綺麗でした。

本当に、髪も瞳も肌も……全部、全部綺麗……。それでいて、すごくかわいい……。

……自分でもよくわからないけど……この娘を越えるものなんて、どこにもないような……そんな雰囲気……。

少女「ふふ、どうしたの?」

ティエル「い、いえ、別に……」

あなたは誰ですかと訊こうとしたところで、シャワー室のほうの扉が開く音が聞こえました。

ティエル「あ、沙耶さん……」

今日はちゃんとバスタオルを巻いていました。

沙耶「……おはよう、ティエル」

ティエル「あ、はい……おはよう、ございます……」

わたし、この人と一緒に昨日……。

うう、顔が熱くなってきます……。

沙耶「エルミリア……来てたの……」

エルミリア「あら、その言い方はひどいんじゃない? お勉強に行くから付き合ってくれって、貴女が言い出したのよ」

沙耶「……忘れてたんじゃないよ。約束の時間まで、まだあるし……」

エル「そうだけど、約束の日くらい部屋にいてくれないと不安になるでしょう?」

沙耶「……ごめん」

エル「って、別に怒ってるわけじゃないのだけど。それに……」

ぱっとわたしのほうに目を向けると、にっこりと微笑んで、

エル「まあ、この娘で帳消しかな♪」

ティエル「はい?」

沙耶「……うん」

ティエル「あ、あの……?」

エル「ねえ、貴女、名前は?」

ティエル「え? ……………ティエル……です……」

エル「へえ、いい名前ね。あ、私はエルミリアって言うの。よろしくね」

ティエル「はあ……」

エル「私、まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言うけど……私のお城に来ない? ティエル」

ティエル「え……? お城……ですか?」

エル「ええ、沙耶や私が住んでるとこ」

ティエル「……えっと……よくわからないんですけど、どうしてわたしがそこに……?」

エル「ん〜、貴女が可愛いから、って言ったら解る?」

ティエル「そういえば沙耶さんもそんなこと言ってたけど……さっぱりです」

エル「そう。じゃあちょっとだけ説明しようかしら。私、自分のお城に好みの女の子をたくさん集めてるの。で、貴女も私好みの可愛い娘だから来て

ティエル「い、いや、ちょっと待ってください……。むちゃくちゃです……。だいたいそんなところに行ってわたしは何をすれば……」

エル「あら、自分の好きなことをしてくれてかまわないわよ。わたしのお城にいる娘たちは、みんなそうしてるんだから」

ティエル「好きなこと、ですか……」

……って、ひょっとして。

ティエル「あの、沙耶さん……もそこにいるんですよね。もしかして昨日みたいなこと……」

沙耶「……ん、毎日してる。……ティエル初めてだったから昨日は少しソフトにしておいたけど……」

ティエル「……………………」

エル「ふふ、まあ、私のところにいる娘たちはみんな似たり寄ったりだけどね。人をいじめてるときのこの娘たちってすごく輝いてて可愛いのよ」

ティエル「………………。あ、あの、どうしてそんなことするんですか?」

エル「どうしてって……楽しいからじゃ、ダメかしら?」

ティエル「た、例えそうだとしても……かわいそうじゃないですか。すごく痛いだろうし……」

沙耶「……ティエル、昨日はあんなに楽しそうにしてたのに……」

う゛。

ティエル「で、でも……」

沙耶「……楽しくなかった? 気持ちよくなかった?」

ティエル「……その……」

エル「沙〜耶。あんまりいじめるのはやめておきなさい。……まあ、別に無理して来ることはないわ。自分の家で普通に暮らしたいんだったらそれでも構わないわよ」

ティエル「そ、そうなんですか? ……じゃ……じゃあ……それで…………」

エル「あら? よく聞こえないわよ? ほんとはもったいないかもとか思ってるんじゃない?」

ティエル「あう;」

エル「ふふ、安心なさい。こうやって出会った以上、もう私たちの繋がりが切れることは無いから」

ティエル「え? ……んむっ」

思わず顔を上げたわたしの口唇を、エルミリアさんのそれがいきなり塞ぎました。

エル「ん……ちゅ、ちゅるっ……ちゅぷ……」

ティエル「ん、んんんっ……んぷっ……」

いやらしい音をさせながらエルミリアさんの舌がわたしに絡まってきます。舌だけじゃなくて、わたしの全てをからめとろうとするかのような動きに、わたしは何の反抗もできませんでした。

エル「ちゅっ……ちゅる……ん、んーっ……っぷはぁ」

ティエル「あ……っ」

もっと続くかと思ったそのキスは、意外とあっさり終わりました。ちょっと寂しいです……。

……ほんとにちょっとです。

エル「ふうっ、はい、これでオッケー」

わぁ……ぬめった口唇が動いてる……いやらしい……。

沙耶「ティエル」

ティエル「あっ……と……」

エル「うふふ、今度じっくりやってあげるから、今日はそれで我慢してくれるかしら?」

ティエル「あうぅ……」

エル「まあ、とりあえずこれで貴女も私たちと同じになったわ。なにかあったらいつでもお城を訪ねてきてね」

ティエル「……? 同じ……って?」

エル「簡単に言うと、貴女は何でもできるようになったってこと」

ティエル「……なんでも……?」

エル「そう、何でも。やろうと思えば、今すぐ世界を滅ぼしちゃうこともできるわよ」

ティエル「ええ…!? ウ、ウソ……?」

エル「ほんと。何か変わった気はしない?」

………………………………

ティエル「…………なんとなくですけど、世界のどこにでも手が届くような感じ……?」

エル「うん、問題ないわね♪」

ティエル「………………エルミリアさん、何者なんですか……?」

エル「さあ、何なのかしらね? でも、私は何でもできる。なら、やりたいこと、楽しいと思うことをやるだけよ。貴女もそうすればいいわ。貴女がそうすることが、私の楽しいと思えることだから……」

ティエル「で、でもわたし、人殺しは……」

エル「だから、したくないならする必要はないわよ。ただ、私は力をあげただけ。どう使うかは貴女の自由だもの。人が殺したいなら殺せばいい。そうしても誰も貴女を責めないわよ、もう」

ティエル「……殺さなくてもいいんですか……?」

エル「ええ、私は命令するつもりはないわ。言ったでしょう、貴女が自分のしたいと思うことをすることが、私にとって楽しいことなの」

ティエル「……………………」

エル「でも、何か悩み事とかあったら遠慮なくお城を訪ねてきなさい。相談くらいには乗ってあげられるから。……いないこともあるけどね」

ティエル「お城……って、どこにあるんですか……?」

エル「今の貴女ならもう解ってると思うし、来ようと思えばいつでも来れるわよ」

ティエル「え……?」

……ちょっとだけ目を瞑って、「お城」を探してみる。

ティエル「…………あ」

見つかった……。

それに、ほんとに行こうと思えば一瞬で行けそう……。

エルミリアさんは、そんなわたしを見て、ふふっと笑いました。

エル「ね?」

ティエル「はい……」

エル「うん、じゃあお話はこれくらいにして……朝ごはんでも食べに行く? まだでしょ?」

ティエル「あ、はい……」

沙耶「サヤ、おなかへった……」

エル「うん、それじゃあどこか喫茶店にでも食べに行きましょうか」

そう言うと、エルミリアさんはさっと扉のところまで行ってがちゃりと開きました。

エル「ほら、早く」

ティエル「……………………」

ぼーっとその姿を眺めるわたしの手が、沙耶さんに取られました。

沙耶「行こ、ティエル……」

ティエル「あ……」

……雑踏の中、エルミリアさんが数歩先を歩いています。

わたしと沙耶さんは手をつないで(というよりもわたしが沙耶さんに手を引かれながら)それについて行っていました。

……わたしは、混乱していたのでしょうか。

混乱が極まって、頭が考えることを放棄したような……そんな状態です。

ただ手を引かれながら、ぼ〜っとエルミリアさんの背中を眺めていました。

ティエル(エルミリアさんのあのドレス、すごい目立ちそうなのになあ……やっぱり何でもできるからなのかなあ……)

そんな意味のないことをぼんやりと考えながら。

くるりと、前を歩くエルミリアさんがドレスをひるがえしてわたしのほうを向きました。

そして、

エル「これからよろしくね、ティエル」

にっこりと。

今までで一番可愛くて、一番綺麗な笑顔をわたしに向けていました。

ちらりと見た沙耶さんの顔も、とても優しく微笑んでいて……。

その笑顔は、わたしの中のもやもやしたものを吹き飛ばすのには充分な力を持っていて……。

ティエル「……はいっ!」

だから、わたしも最高の笑顔で答えることができたんです。

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