○屋根裏3
屋根裏のユニットバスには窓がない。もちろん時計もない。
明城先輩が出ていってから、どれくらい時間が経ったのか。具体的に見当をつける当てがない。
湯船は気持ちよかった。
縄の跡がちりちりと痛むけど、湯のあたたかさに血行が呼び戻されていくのがわかる。
糊のようにこびりついていた先輩の『ザーメン』も落ちて、ようやく人間になれた気がする。
できることなら、ずっとこのまま、湯につかっていたかった。
「……」
ゴン、ゴン、ゴン……と、剥きだしの換気扇が機械的な音をたてている。
気を緩めたら、おしまいだぞ。
そう云っているような気がする。
あまり長く入っていると、先輩が闖入してくる可能性があった。
水責めは、もう、二度と味わいたくない。
髪をつかまれ、湯のなかに沈められた。絶息寸前で引き上げられたぼくが必死で呼吸しようとするさまを、先輩は恍惚とした表情で眺めていた。そしてまた、荒い息をしているのにもかかわらず、湯の中へと押しこまれた。
浴槽一杯にたたえられた湯の中で、先輩の艶めかしい裸身と黒髪がからみつき、溺死するところだった。
長湯は、死を招く。
といって、この監禁中の身に残された、唯一の慰みを捨てる気にもなれない。
それに、汚れた身体のままでは、先輩の不興を買う恐れがあった。ぼくの命なんて、明城先輩の気分ひとつ、指先一本で、軽く握りつぶされてしまう。
……。
いや、違う。
出会って、付き合ってから、今に至るまで。明城先輩は、ぼくにたいして不快な感情を抱いたことなんてない。
荒縄でもって、あざができるほどぼくの四肢を縛りあげるときも。
ふたなりの身体でぼくの穴を貫き、犯すときも。
あの美しく整った指で、骨がきしむほど強く、皮が裂けて血が吹き出るほど激しく、ぼくの首を絞めているときも。
明城先輩は、ずっと、ぼくを愛している。
それは、確かだった。
確かだからこそ、なお悪い。
ざば……ぁ
覚悟を決めて、湯船から上がる。
用意されているふかふかのタオルで、濡れた身体を拭く。
「あれは……だめだ」
ぼくの視線の先には、脱ぎ捨てたオムツがある。拘束されているあいだじゅう、強制的にはかされていたやつだ。ふつうの下着だって、一度脱いだものを身につけるのは、抵抗がある。
あんなもの、買ったばかりの新品だって、自分からはく気になどなれない。
といって、局部丸出し全裸のままで、先輩の前に出るのはまずい。たいへんよくない。空腹の虎の口に自分から飛びこんでいくようなものだ。
とにかく大事なことは、明城先輩をむだに刺激しないことだ。
腰にタオルを巻いた。
はなはだ頼りない防具だけど、ないよりはましだろう。
今日こそは、先輩に一方的に嫐られるままにならないように、細心の注意を払わないと……っ。
「……よし」
大きく息を吸ってから、ドアノブに手をかける。
まずは……先輩の情欲の火を鎮めないと。押し倒されるまえに、なんとか、説得して、そして、そして……。
ぶつぶつと口で反復しながら、戸を開く。
「あれ」
ぼくは思わず声をあげた。
陽も落ちかけて、西日の最後の明るさで、部屋は真っ赤になっている。大きなダブルベッドの上に、窓枠やカーテンと影が長くのびて落ちている。
部屋は、がらんとしていた。
明城先輩の姿が消えている。
「……っ!」
急いで斜向かいの板戸に、さっ、と目をやる。
先輩がいない。
考えられるのは、先輩はなにか切迫した事情から部屋から出ていった……そう、生理現象とかで。
となると、もしかしたら、鍵もかけ忘れて……いや、かかっていても窓から、屋根づたいに脱出できる……ガラスはタオルで手をくるんで殴れば、音もあまりしないはず……っ!
ふらふらと、出入り口の戸の方へと、一歩踏み出す。
ぃぃ、きぃ……っ
ぼくの、足音のあとに、もうひとつ。
後ろで。
床板のきしむ音がした。
「ふふっ」
全身の筋肉が、硬直して、動けない。
目の前が真っ暗になる。自分のあさはかさを呪った。
先輩が、ぼくを残していなくなるような、へまをするわけはないじゃないか。
たとえ、急に催したとしても、どうどうとぼくのいるユニットバスの方へと入ってくるに決まっている。
ずっと浴室の扉のまえで……扉の陰になる所で、獲物を狙う肉食獣のように、音もなくぼくを待ち構えて……。
「せんぱ――」
なにか、云わないと、まずい。
先輩の方に振りむこうとした。
しかし、
するっ
後ろから、蛇のように、柔らかい細い腕が首に巻きついた。
と同時に、ぎゅうぎゅうと、力がこもって、頸動脈を、気道を、絞めあげはじめた。
「ぁ、ぅぇ、ぁぁっ……っ?!」
悲鳴も、あげることも、できない――
ぼくが屋根裏にいる3つの理由 【5】
「え、ぐ、ぉぁぁっ……!?」
あごの下に、腕ががっちりと食いこんでいる。
腕に力がこもって、ぼくはつま先立ちになる。
「あは……相原さんの声、ぞくぞくします」
耳元で、明城先輩の声がする。
れろ……っ
首筋に、生温かい柔らかいものが、這う。
「ふふっ。つい、相原さんの味見をしてしまいました」
かぷり、と耳たぶを甘噛みされる。
腕が、容赦なく首を絞めあげる。
明城先輩も、裸のままだった。
背中にたぷんとした乳房の感触。突端が硬くなって、ぼくの背中を刺激する。
バスタオルでおおわれた尻に、ぐぐっ、と硬くて長い肉棒が押しつけられている。
「……ああ、ふぐっ、せん、ぱ……」
「身を任せて下さい。すぐ気持ちよくしてさしあげます」
明城先輩は裸のまま後ろから抱きしめるようにして、スリーパーホールドをかけている。
細いが余分な脂肪が全くついていない前腕が頚動脈を圧迫している。
目の前がみるみる赤くなっていく。
「首がしまると、気持ちいいでしょう?
あは、こんなに大きくして……喜んでもらえてうれしいですわ」
「あ、がっ……!」
バスタオルのまえが、ぼくの意思とは関係なく、ふくらんでいる。微塵の加減もなく首を絞めあげる明城先輩に、ぼくの全身が種の保存の本能からか、過敏な反応をしていた。
背中にはたわわな双丘が押しつけられ、尻の割れ目にはぎんぎんに勃起した肉棒がめりこんでいる。
ひゅぅぅぅ ひゅぅぅう ひゅぅぅっ ひゅぅぅぅぅっ
喉から、自分が出しているとは思えないような異音が漏れ始めていた。
全身が、がくがく、と震える。
とさ……と、バスタオルが床に落ちた。
「本当に、いい声で、啼きますね……このまま、落してもよろしいですか? いいですよね?」
明城先輩は一気に腕に力をこめる。
かはっ!
喉の奥で破裂音。
ぷつんと視界が真っ暗になる。
次の瞬間――
ずぶぶぶぶぶぶぅぅぅぅっ!!
めりめり……っっ!!!
「っ、くぁぁぁぁあぁぁっ?!!」
アヌスに走った激痛で無理やり意識が現世に戻される。
「あは……っ♪
失神するとぉ、肛門の括約筋が緩んでぇ、すんなり挿入できますねっ」
ほぐしもせず、ローションもつけず先輩の剛直が肛門を一息で貫いたのだ。
「あぁ、ぁぁああぁーっ!!」
痛みでぼろぼろと涙を流すぼくの耳元で、
「相原さんのなか、あったかいです……っ!
肉襞が、私のモノを、ぎゅうぎゅうと締めつけてぇ、ああ……っ♪」
明城先輩が、ぼくを貫きながら、随喜の悲鳴をあげている。
ぐりぐりとドリルのように直腸を抉っていく凶行に、ばたばたと腕を振り、逃れようとする。
しかし、明城先輩の腕は喉にがっちりと絡みついたまま、獲物を捕らえた蛇のように放さない。
ぐいと腰を下から押し上げ、巻きつけた腕に力をこめて、明城先輩は己の肉棒をぼくのなか深く、ねじりこんでいく。
「うぁぁぁ、ぃぃ、ぐぅぅぅっ?!」
「ヒダヒダも気持ちいいっ!
もっと……もっと締め付けてくださいっ、相原さんぅぅぅ〜っ!」
ぐぐぐっ!!
嬌声をあげる明城先輩は、力の加減もなにもなく、首を絞め上げる。
勝手に舌が外に飛びだし、よだれと鼻水と涙がとめどもなく流れはじめた。
全身の筋肉が、命の危機に引きつり、硬くなっていく。
肛門がきゅっと窄んで、明城先輩のペニスを絞りあげた。
「あああんぅぅっ♪ すごくいいですっ! やっぱり、首絞めながら、相原さんを犯すのって、最高ですっ!!」
がくがくがくがくがく……
脳に血が行かなくなった身体が震えはじめる。
「んくぅぅぅぅうっ……!! 振動がっ、すごいっ、ですよぉ♪」
明城先輩は快感に身をよじらせていたが、
すっ……
やおら腕の力を抜いた。
「?! ……っ、くはっ!! ぜーっ! ぜーっ!」
脳が、全身が、酸素を求めている。
過呼吸のせいか、目の前を白い火の粉のようなものが無数に飛び回りはじめた。
……ぐっ!!
「かふっ?!」
何の前触れもなく、明城先輩の絞めつけが再開された。
「動かなくてもっ!
こんなにっ!
気持ちがいいなんてっ!
あはぁ、病みつきになりますぅぅ……」
「ひっ! がっ! あぐ! かは……っ!!」
明城先輩は断続的に首を絞めては放し、また締める。
もがく獲物の筋肉の痙攣や内臓の収縮で、己の淫棒をしごきあげて、腰を動かさないままで快楽を貪っている。
この一方的な、快楽の搾取。
ぼくがぼくでなくなるような、絶対的なまでの、肉の支配。
「あはぁっ♪ 相原さんっ、おしり……もっとキツくしめて下さいっ!
さあ、もっと強く抱いてさしあげますからぁっ」
ぎゅうううううっ!!!
「ひ、ああ、ああああああっ……!」
ぼくは。
自慰機械だった。肉穴だった。雌ねじだった。しまりのいい穴だった。生きている腸だった。
「あん、んっ、ぉあぉぉぉぉっっっ!! しまるぅぅぅっ♪ ぎゅーって♪
ぎゅっぎゅってなる腸壁ィ、最高ですよっ?!」
「ぜーっ、ぜーっ……! ?! はぐぅっ! ぐぐぅっ……!」
むにっ
明城先輩はさらに多くの器官から快感を得ようと、胸をさらに強く押しつけてきた。
硬くなった乳首の感触が、朦朧とする意識のなかでやけにはっきりと感じられた。
ぎちっ ぎぎぃぃぃっ……!!
明城先輩の爪が、皮膚に食いこみ、引き裂いていく。
「んんぅぅぅ〜〜っ♪」
ぎゅうぅぅっ、とぼくを抱きしめながら、先輩は限界まで膨らんだ海綿体を根元まで肛門に埋めこんでいた。
「お、あ……かはぁ……っ」
裸絞めは解除されていたけど、お腹のなかに異物をむりやり挿入されて、呼吸ができない。
「ふふっ……相原さんのおなか……ぷっくり、膨らんじゃいましたね〜? 私のもので、突き破ってしまいそう……」
明城先輩はうっとりと云った。
腸の直径がふだんより一回り大きく拡張される。
明城先輩の肉棒が完全にぼくの内臓と一体化し、ぼくは先輩のペニスを包むただの肉になる。
どくどくっ どくっ どくん……っ
先輩の奥からマグマが流れだして、すごい勢いで尿道をせりあがってきている。
すでに明城先輩の性器の一部分に成り果てたぼくには、手にとるようにわかった。
「また……また、いきますからねっ?! あぁぁんんっっ、ぅぅーーーっ♪♪」
明城先輩が吠えた。
ペニスが唸った。
びゅぶぶぶぶぶぶぶぶぶぅぅぅぅっ!!!!
どばどば……っ
「おええええっ?!!!」
滝がひっくり返ったような勢いで大量のザーメンがS字結腸に注ぎこまれた。胃にまでせりあがってくる。
猛烈な吐き気がこみあげたとき、
「ふわぁああっ♪」
絶頂に達した先輩の腕が首を最大の力で締めあげた。
「ぐ」
一瞬で意識を刈りとられる。
精液まじりの小便を漏らす。
喉の奥から、射精されたばかりのザーメンやカウパーや聖水の混じった胃液をもどした。
明城先輩は、ぐったりとなったぼくの身体を、全身で羽交い絞めにしながら、精の残滓をどくどくと送りこんでいる。
明城先輩に、犯され、絞め落とされる。
あの日、先輩に捕まって以来、ずっと続いてきた悪夢のような、現実。
あれから、ずっと凌辱されつづけて――