●回想2−破局の理由(3)
「はぁ……はぁ……」
明城先輩が、頬を上気させて、立っていた。
ぼくは、ソファに座ったまま、先輩を見上げていた。
「で、ではっ、失礼します!」
ふるえる手を、スカートのなかへとすべりこませた。手探りで、真っ白なショーツに指をかける。
「あ」
とつぜん、するすると、緞帳のようにスカートが上がっていった。太ももがあらわになる。
見ると、頬を赤くした先輩がスカートをつまみあげていた。
ぼくは、ごくりと唾をのみこんで、ゆっくりとショーツを下ろしていった。
「はぁ……はぁ……」
息が荒くなった。
まるで、夜な夜なベッドのうえで妄想したままのシチュエーションだ。
ただ、ぼくの妄想と違ったのは……。
ぶるんっ
ショーツを下ろすと、長くて太い先輩のペニスが、勢いよく飛び出してきたことだった。
ぼくが屋根裏にいる3つの理由 【4】
重力にしたがって、放物線をえがくようにして、肉の鞭がしなった。
メトロノームのように何度か振幅運動をしてから、上向きに角度をつけて、先輩の秘所の全貌があらわになった。
ペットボトル大の肉竿が、股間からすらりと伸びていた。
根元には“袋”はついておらず、かわりに秘裂がすじとなって股間に走っていた。いや、ふつうなら、ペニスのほうが異物なんだけれど……あまりにも存在感が圧倒的で、女性器のほうが添え物のようだった。
「あぁ……。相原さんの息が、当たって……ますっ」
ぎゅっ、と先輩の太ももが緊張した。
「さ、触りますよ先輩」
目の前で、ひくひくと動く肉棒に手をのばした。
「あっ!」
「ビクビク、してますよ……それに、熱い、です」
ゆっくりと、竿の部分をさすった。
肌ざわりは、慣れしたんだものだった。自分以外のモノをしごくなんて、想像したこともなかったし、したくもないけど……明城先輩のモノだと考えると、触っているだけで、ぼくの股間もなにやら硬くなってきていた。
「あ、ああ、んっ……」
快楽に震える先輩の声も、劣情を刺激した。
しゅっ しゅっ
ぎこちない手つきで、しかし熱をこめて、先輩の肉棒に手淫をほどこしていった。
「あ、相原さんの、ゆびっ、良すぎてっ、私ぃ!」
「わっ、ま、まだ大きくなるんですか?!」
一般の男子のものよりはるかに大きい先輩の逸物が、みりみりと、手のなかで膨張していった。とてもじゃないけど、片手ではつつみきれなかった。
「あ、くっ」
手のなかで、先輩のペニスが暴れていた。手からはじけ飛びそうになったので、反射的に両手で、ぐぐっ、と握りしめてしまった。
「んんっ……そ、そんなに強く……」
先輩の唇から、苦しそうな声がもれた。
「す、すみませんっ」
あわてて、はなそうとすると、
「そのまま、ああっ、握っていて、ください……っ!」
局部をかなり乱暴に圧迫されていても、先輩は快感を得ていたらしい。
目の前には、子供の拳大の亀頭があった。先端の割れ目からは透明の露がにじんで、玉になっていた。
「あいはらさん……キスして、くださいっ」
「え」
先輩はスカートをめくりあげ、ソファにすわったままのぼくにペニスを握らせている姿勢だった。この状態でキスはむりだ。
「私の先端にっ、キスを……おねがい、します」
全身をかすかに震えさせて、先輩はあえいだ。
「そ、それって……」
「おねがい、ですっ」
ぐ、と先輩が腰を入れてきた。
ドクドクと露を垂れ流した、赤黒い亀頭が、目の前いっぱいに広がった。
つん、とキツい匂いが鼻を刺激した。
さすがに戸惑っていると、
「早くっ」
いつにない切迫した声で、先輩。
「は、はい!」
条件反射のように、ぼくは先輩のペニスへと唇をよせた。
ぬるっ
生温かい肉の感触と、ねっとりとした汁が染みていく感覚。
「あはぁ、んぅ……♪
相原さんの唇、素敵ですよっ」
ぐりぐり♪
「んんっ?! せんぱっ、ん、そんな、腰おしつけないでっ!」
「はぁ……ん、勝手に、腰が動いてしまいます……っ!」
ぎゅうぎゅう押しつけられる、明城先輩の亀頭。唇に、透明な露をぬりたくっていった。
「うぷっ、んーーーっ?!」
亀頭におされるように、ソファに後頭部を押しつけられた。
それでも先輩は……粘膜同士の接触からの快楽を貪るように、ぐいぐいとさらに先端を押しつけてきた。
「あ、相原さんっ。このまま、咥えて下さいっ」
「んむぅ、んんっ?!」
唇にぬらぬらとした亀頭をおしつけられていて、声が出せなかった。
ブロックサインで“むりです!”と伝えるが、荒い息を漏らす先輩はぐいぐいと腰を入れてきた。
「あ、ぐぅぅぅ……?!」
「んんぅっ、歯の硬い感触もぉ、ぞくぞくしますわっ♪
歯茎もぷにぷにしてっ、ああ……♪」
唇を割って入ってきた亀頭が、歯をぎしぎしと圧迫していた。
先輩の鈴口から先走った汁が、歯のあいだから染みだしてきた。
「えぅ、ぐっ……!?」
舌のうえに、未体験の、形容しがたい味がひろがった。
体が本能的に異物を吐き出そうとするが、たえまなく湧いてくるカウパーは、つぎつぎと口内に注がれていった。
「ぃ、うううっ!!」
「ひぅ?! 相原さんの舌が、つんつん、ってノックぅ♪」
のどに流れこんでくる粘性のある汁に、舌が震え、えぐりこまれる亀頭に接触していた。
唇と、歯と、歯肉と、舌の感触に、先輩の亀頭がふるふると歓喜に震えた。
「あ、もう……イッてしまいそう……っ」
「っ?!」
達する予兆が、明城先輩の奥から、口もとに咥えた亀頭に伝わってきた。
口内で射精される……っ!
本能的な嫌悪感で、首を振ろうとした。けど、昆虫標本のように、先輩の巨根に釘付けにされて、頭が動かせない!
「あっ、ああーーーっ! 相原さんっ、私の精を、お口で受け止めて下さいっ!!」
「んぐぅぅぅっ!!?」
ぶびゅうぅぅぅうぅぅっ!!!
口のなかに、どろどろの液体がぶちまけられた。
「あああ……♪ こんなに、出るのは、久しぶりです……♪」
「んぐ、ぐ……っ、ぅぅっ」
苦い。べとつく。苦しい。気持ち悪い。
飲みこむのを必死にこらえても、先輩はぴったりと口もとに亀頭をおしつけ、たえまなく、膨大な量の精を流しこんできた。
常識外れなほど、怒涛なまでの射精量。
半ゼリー状の先輩のザーメンがのどにからみつき、うねって、あっというまに口のなかいっぱいに溜まった。
「う、ぶふぅっ?!」
鼻に逆流して、豚のような声がでた。
「あ……」
さすがに限界をむかえたのか、先輩の射精が止まった。腰から力がぬけて、亀頭が唇からはなれた。
「けほっ! えふっ! おえぇぇ……」
ぼくはそのままソファから転げ落ちて、四つん這いのまま、咳きこんだ。
「かはっ……ぜー……ぜー……」
値段も想像できないような豪奢な絨毯に、白濁と唾液を吐きだす。つん、とザーメン特有の異臭がひろがった。
「あらあら……相原さん、大丈夫ですか?」
上から、いつもの調子のままの先輩の声がした。
「はぁ、はぁ……ひ、ひどい、ですよ……せんぱいっ!」
さすがに、ぼくは声を荒げた。
「ごめんなさい、相原さん。私、昂ぶってしまうと、つい我を忘れてしまうんです」
見ると、先輩は頬に手をあて、困ったような表情をしていた。
「“我を忘れて”って、いくらなんでも……うう……ひどいです」
まだ、粘りけのある汁がのどにひっかかっているようだった。けほけほと空咳をしても、気持ち悪さはなくならなかった。
「……」
そんなぼくを、先輩は、じっと見下ろしていた。
落ちつかない様子で、長い黒髪を指でいじっていた。
「なにか拭くものありますか、先輩」
顔じゅうが、先輩の白濁でべとべとになっていた。
「先輩?」
なにも云わないまま、ぼくを見つめていた。
ただでさえ大きな先輩の胸が、風船のようにふくらんで、かすかに震えていた。ブラウスの上からでも、よくわかった。先輩の呼吸が乱れている。唇から熱い息が漏れていた。
「はぁ……はぁ、相原、さん」
「え、あの、どうしたんですか。そんな、赤い顔をして……」
熱病に浮かされたような先輩の瞳に、ぼくはおもわず一歩引いてしまった。
「素敵……」
「へ」
先輩が一歩前にでた。
「相原さんのお顔……涙と鼻水と私の精で、べたべた……呼吸ができなくて、喘いで、肌を赤く染めて……ああっ」
「せ、せんぱい?」
うっとりとつぶやきながら、尻もちをついているぼくの脚をまたぐように、仁王立ちになった。
「もっと、もっと、汚したいです。
その可愛らしいお顔を……真っ白に汚して、赤く染めてさしあげますわ……」
「な、なにをいって……」
ここで気がついた。
ぼくをまたいでいるため、先輩は局部を見せつけるようにして立っていた。柔らかそうな肌に刻まれた陰裂から、太ももをつたって、つーっ、と一筋の愛液が垂れていた。
ひくひくと震える大陰唇からそびえ立つ陰茎が、グロテスクなまでに血管を浮き立たせ、スカートを押し上げ、生地に染みを作っていった。
「あ……あ、あ」
「ふふっ……おびえた表情も、愛らしいですね……相原さん?」
明城先輩は笑っていた。
いつもぼくに見せてくれた、気品のある、美しい微笑みだった。
でも、色白の頬は興奮と期待で桜色に染まり、涼やかな瞳には妖しい熱がこもっていた。
「さあ……もう一度、キスを。
今度は、もっと深く、とろけるくらいまで、愛してください」
ずん、と目のまえに、巨大な肉塊が突きつけられた。あれだけ射精したあとにもかかわらず、亀頭は充血してぱんぱんになっていて、鈴口から待ち切れないように露がもれだしていた。
「あ、ああ、先輩……じょ、冗談ですよね?」
「冗談、ですか?」
こくん、と先輩は小首をかしげて少し上を見ていたけど、
「……ふふっ」
おかしそうに笑った。そのまま、ゆっくりと腰を突き出してきた。
鼻先すれすれまで、先輩のじっとりとした亀頭が接近した。
「……っ!!」
あわてて、口を閉じた。
「……相原さん?」
ぐにっ ぐにぐにっ
「〜〜っ?!」
唇を、膨張しきった亀頭がノックした。とろり、とカウパーが糸を引いた。
「はぁ、そんな意地悪、なさらないでください……。
私のすべてを受け入れていただける、とおっしゃってくださったではないですか」
悲しそうな声で、先輩。
ぼくの頭をしっかりとつかんで、ぐりぐりと鈍器のようなペニスを押しつけながら。
「〜っ!? ぅぅ……っ!!」
ぼくは、もう、泣いていた。
いろいろなことが立て続けで起こって、わけがわからなくて、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ああ……相原さん、泣かないでください」
そんなぼくを見て、先輩は困ったような声をあげた。
はぁはぁ、と肩で荒い息をしながら、
「そんな顔をして……あはっ♪
……私の劣情をかき立てないでください……っ!」
ぐぐっ……!!
皮膚にえぐりこむように、ペニスが突きたてられた。
「ぅぅぅっ!!」
1ミリでも唇を開けたら、そこからなかへと押しこまれる!
恐怖で貝のように口を閉じていた。
「んっ……もう、焦らすのが、お好きなんですか?
もう、相原さんっ、えいっ♪」
ぶちぶち……
すごい力で頭を引き寄せられ、髪の毛が何本もぬけて、先輩の指のあいだに残った。
じゅぶじゅぶ、と音をたてながら、先輩のペニスが先走り汁をぼくの唇に塗りたくっていった。カタツムリが這ったような跡が残った。
「ふふっ……強引にねじこまれるのは、お嫌いですか?
では、相原さんから、咥えていただくようにしてさしあげましょう」
片手で頭を固定したまま、先輩は自由なほうの手で、ぼくの鼻をぎゅっとつまんだ。
「〜〜っんっ?!」
電流が走った。
目をむいて、先輩の腕をつかんだ。でも、鼻という急所をなにか特殊な技で拘束しているためか、激痛が走って、力が入らない……っ!
「ああっ……顔を真っ赤に染めた泣き顔……なんて、可愛らしい……」
ぎりぎりぎりっ!
恍惚とした表情で、先輩は鼻をねじりあげてくる。
体が火照っているのか、ぷちぷちと制服のボタンを外していく。ブラウスのすきまから、ブラジャーに窮屈そうに包まれた大きな乳房がのぞく。汗が玉になって肌に浮いていて、ほんのりと朱色に染まっていた。
「ぅぅぅっ!!!!」
鼻をつままれて、息ができない。顎から力がぬける。
「はい。
あ〜ん、ってしてくださいね♪」
「ぅぐぐぐぅぅぅうっ?!!!!」
ずぶずぶずぶずぶずぶずぶぅぅぅぅっ!!!!
わずかに開いた隙をのがさず、大蛇のような肉の塊が、唇を割って口内にもぐりこんできた。
「んんんぅぅぅっ!! 相原さんのお口ぃぃっ♪」
「うぅ、ぐぐぐぅぅっ?!!!」
ぎち……ぎち……っ!!
女性の拳大はあるモノを強引にねじこまれたせいで、顎関節が音をたてて軋んでいた。
「歯が食い込んで……痛いけど、気持ちいいっ!」
天を仰いで、先輩が口淫の悦楽に身を震わせていた。
口のなかいっぱいに、ビクビクと脈打つ、熱い肉の塊。
先っぽからびゅるびゅると、粘性の汁を吐き出し、のどを汚していった。
舌を圧迫し、餌付きそうになるが、吐き出せない。肉厚の海綿体は、顎をおしひろげていて、噛み切ることすらできなかった。
「ぅ、おぇ、ぇぅ……っ!」
のどの奥から声にならない音を洩らしながら、女陰から生えた陰茎を咥えされ、悶絶していた。
「ふっ……ふふっ♪
素敵……っ。私のものを、相原さんが口いっぱいに咥えて、ふるふると悶えて……ああっ♪」
頭を押さえていた先輩の手に、ぐっ、と力がこもった。
「もっとっ、喉の奥でっ、咥えてくださいっ!」
めり めりめり……ッ!
「ん、ぉぉぉ、ぁぉぉっ?!!」
「あはぁっ! こんなっ、深く、咥えていただけるなんてっ! 相原さんの喉っ、とても温かくてっ、私っ、もう達してしまいそうっ!!」
「……っ、……っ」
ビクンっ ビクンっ
歓喜にむせぶ先輩と、口内にねじこまれた陰茎。
ぼくは肉竿をのど奥深くまで挿しこまれた形で、なかば意識を失っていた。のどの奥深くで血管を脈打たせる先輩の肉竿にあわせ、視界がぶるぶるとぶれた。
「ぅあああぁぁぁっ♪ 射精しますからねっ?! ぜんぶっ、お飲みになって下さいねっ!!」
「ぅ……ぅ、っ」
ぼくに、抵抗する余力など、なかった。
気道を海綿体で占領されて、だくだくと分泌される激臭がのどの奥から鼻に抜けていた。しかしまだ足りないのか、明城先輩は貪欲に快楽を貪ろうとする。両手でぼくの頭を押さえこみながら腰をふって、さらに奥深くまで彼女自身をもぐりこませてきた。
がくんっ、がくんっ、とピストン運動に合わせて頭を揺さぶられた。意識が、飛びそうだった。
頬を上気させた明城先輩が、吠えた。
「あひっ、いっ、いきますよぉぉぉっ♪」
どぴゅっ びゅるるるるるるぅぅぅぅっ!!!!
のどで、蛇口が決壊した。
「ああああ……♪」
「がぼっ、ぐぶっ……っ!」
おびただしい量の白濁が、食道に注ぎこまれた。
「相原さんが、私のをっ、ごくごくっ、飲み干して……あはっ♪
まだまだ出ますからねっ? 私の子種を……すべて、注ぎこんであげますから♪」
恍惚とした表情で云いながら、明城先輩はぼくの髪をつかんではなさない。
たえまなく注がれるザーメンの海に溺れそうだった。
「う、ごくっ、ぐぐっ、ごく……っ」
溺死しないように、だくだくと送りまれてくる汁を、かろうじて残っていた力で嚥下していった。
「はぁん……んんっ……」
ぶるぶるっ、と身を震わせて、最後の一滴までを喉にだし終えてから、先輩はようやくぼくの髪を放した。
「ぉふっ」
とさ……
ぼくは、絨毯のうえに、音もなく倒れた。
唇の端から、だらだらと精の残滓がこぼれおちた。
「こんなに、射精したのは、初めてです……♪」
肩で荒い息をつきながら、明城先輩はうっとりと見つめてきた。
「はぁ、はぁ……相原さん、そんな悩ましげなお姿で、私を挑発しているのですか?」
顔中をザーメンまみれにして、ひゅうひゅう、と息をかすれさせているぼくに、熱を帯びた調子で語りかけた。
「もっと、汚してさしあげたい……。
穴という穴に、挿入して……私の精で相原さんをいっぱいにして……はぁん♪」
腕を組んで、ぞくぞくっ、と先輩は身を震わした。
ごぽっ……
のどの奥から、ゼリー状のザーメンが逆流して、絨毯のうえに落ちた。
倒れて動かないぼくに、明城先輩はゆっくりと体を重ねた。
「夜は、長いですからね……。
ゆっくりと、たっぷりと。愛して、あげますよ……ふふっ」
れろ……
そして、真っ赤な舌で、ぼくの頸動脈をなぞった。
ぴくり。
ぼくの指が、反射的に、動いた。
「……ぅ、うわあああああああああああああっ!!」
どんっ!!!
そして、先輩を勢いよく突き飛ばした。
「きゃっ?!」
不意をつかれた先輩が、倒れた。
「わぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ぼくはそのまま部屋から飛び出した。
迷路のような廊下を、どう走ったのか。
林のような庭を、どうさまよったのか。
あの高い塀を、どうやって越えたのか。
気がつくと、見慣れた路地にいた。
ぼくのマンションが、すぐそこに見えた。窓々にほんのりと灯りがともって、夕闇のなかに浮き上がって見えた。
「うっ……ひっく……」
安堵感からか、恐怖からか、絶望からか。
涙がこぼれた。あとから、あとから出てきて、止まらなかった。
家に帰ると、母さんはべつに出迎えなどすることもなく、テレビを見ていた。
いつもの通りの、我が家の光景だった。
まず洗面所で、涙とザーメンでぐちゃぐちゃの顔を、洗った。
何度も何度もうがいをして、何度も歯を磨いた。
「夕飯まえなのに、どうしたの?」
母さんが声をかけてきた。
ぼくは、床屋に行きたい、と云った。
「夕飯まえなのに?」
夕飯のあと、床屋に行った。
ばっさりと髪を切った。ついでに、金髪にした。
帰ったら、父さんに引っぱたかれた。母さんはおろおろしていた。姉貴は“なにやってんだか”といった表情だった。
そのあとは、とくに何事もなかった。長男のとつぜんの金髪デビューの話も、それきりだった。
ただ、はっきりとしていたのは……ぼくは、もう二度と、明城先輩と話す気がないということだけだった。顔すら、見たくなかった。
長い一日が、ようやく終わった。
疲れ果てて夢も見ないで眠った。
悪夢はまだ始まったばかりだと、知らないまま――